今年度も、沢山の方々のお力添え並びに活動へのご参加を賜り御礼申し上げます。令和3年9月の発足以来丸一年以上が経過し、押沼拠点での活動を中心に沢山の経験を積み重ねることが出来ました。
今年度の活動を振り返り、総括・活動報告とさせて頂きます。
1月 木工舎・納屋の環境整備が本格化
押沼物件オーナー様より提供頂いた粗材を皆で製材し、L字カウンターや作業台を製作して木工舎に設置。壁にはパンチングボードを設置しました。
鋸・鑿・鉋・小刀・毛引・定規・各種ヤスリ・サンドペーパー・ボール盤・ドリルビット・小型集塵機・研ぎ台・砥石・ギター製作専用工具などは共同体メンバーが出資し合って揃えました。それぞれの工房のものは持ち出せないので、押沼拠点用に一式揃える形になりました。クランプ類はオーナー様よりご提供頂きました。
納屋には続々と大型電動工具が届きます。木工旋盤一式・グラインダー・テーブルソー・スライド丸鋸盤はオーナー様よりご提供頂きました。大型バンドソー・電動丸鋸・大型集塵機・ベルトサンダーは共同体メンバーが出資し合って揃えました。
半吹き抜け状態だった納屋の壁を塞ぎます。納屋周辺の景観を崩さないようにということで、製材した杉板を焼いて色味を合わせました。高所の板打ちにはなかなか苦労しました。
床面のコンクリートの流し込みはオーナー様にご手配頂きました。流し込み後の面均しはオーナー様自ら行って下さいました。もともとは土がむき出しの状態で電動工具を設置出来る状態にありませんでしたから、これでようやく道具を搬入出来るようになりました。
2月 納屋の整備が概ね完了、押沼農園が本格始動
壁面の穴が概ね塞ぎ終わり、オーナー様より提供頂いたOSB合板で内壁を貼り付けました。
共同体メンバーに加え、単発で手伝いに来て下さる近隣の方や、SNSやブログをきっかけに遠方より見学にお越し頂く方もおられました。現在は共同体の製作教室で講師を務めるようになったメンバーもこの頃に参加してくれました。
「活動に興味はあるけど何をしたらいいか分からない」という意見に応える形で、気軽に参加しやすいピザ釜作りなども企画しました。ピザ釜は形になりましたが、これをきっかけにメンバーが増えるということにはなりませんでした。
木工舎・納屋の整備と並行して行っていた自給農の準備。押沼拠点の隣の空き地を開拓し、畑になる見通しがついたので希望者を募りスタートアップ説明会を開催しました。
オーナー様のユンボで土中の異物を取り除き、共同体メンバーが持ち込んだ耕運機で土起こし。堆肥や籾殻などは共同体メンバーで出資して準備しました。
何年も空き地になっていた土地なので、最初は土が硬くしまっていました。浅く何度も耕運機を走らせて露地栽培に適した土にしました。
オーナー様より提供される地域の間伐材を製材して製品にするという試みも実験的に行われました。これが形になれば「原材料から製品まで」の流れを共同体で賄う形になり、ヒト・モノ・コトの自給自足を目指す我が共同体が目指す形の雛型がうっすらと見えたように思います。
間伐材の製品化や新しい製作教室のテーマとして、共同体内での木工旋盤の技能共有も開始されました。
3月 押沼農園の整備・ゴールデンウィーク企画の準備
近隣で伐採された竹をお譲り頂き、共同体メンバーと地域の方々で協力して竹柵を農園周囲に設置しました。合わせて、農機具小屋も設置されました。
皆で協力して事に当たる過程で共同体形成を行うことを目指しました。
押沼農園は畝立ても終わり、植え付けが始まりました。
この頃、ゴールデンウィークにウクレレ作り・木工旋盤・レザークラフトの3ジャンル同時開催の製作教室企画が立ち上がり、共同体メンバーはその準備に追われました。分担してウクレレキットを作ったり、指導方法の検討をしたり、広告の方法を検討したりと大忙しでした。
4月 農園にも新緑、企画準備、技能共有の輪
農園には春作野菜の新芽が見られるようになり、畑らしい光景となりました。皆で苦労して開墾した甲斐もあり、野菜は元気に育ちました。
教室の準備は大忙し。特に、ウクレレキット製作は大変でした。
新たに参加したメンバーは、ギター製作の出来るメンバーから要所要所で指導を受けつつ、自力でギター製作を始めました。
押沼農園の畝一列を地元のボーイスカウト団に提供し、さつまいもの植え付け・収穫体験をしてもらうという企画も行われました。モノづくり共同体としては、土づくりから始めて植え付け・除草管理・蔦の整理・収穫と体験して欲しかったのですが、諸々の事情から、子供たちの体験はほぼ芋掘りのみとなりました。
サツマイモ企画と連動してフォトフレーム作りという企画もありました。↑の写真は試作に来て下さった保護者さん。お忙しい中、慣れない作業を頑張っておられました。
5月 GW製作教室・東国吉農園スタート・Fさんの製作教室
企画・準備・告知と準備を重ねてきたゴールデンウィーク特別企画の製作教室。全コースに参加者があり、無事開講されました。こちらは旋盤教室の様子。旋盤教室は納屋で行いましたが、電動工具が使えるよう、事前にオーナー様が電気工事を頼んで下さいました。
こちらはレザークラフト教室の様子。
こちらはウクレレ製作教室の様子。
地域の方と押沼物件オーナー様のご厚意で、東国吉でも農園を運営出来ることとなりました。こちらの畑は押沼農園に比べると倍以上の面積で、約500㎡ほどありました。
オーナー様に堆肥の一部をご提供頂き、モノづくり共同体メンバーが育苗した苗や、購入した種子を植え付けました。
共同体メンバーの耕運機で仕事をするには少々広すぎる圃場でしたが、そのおかげで初めて耕運機を扱うメンバーの練習の機会が増えました。
こちらは埼玉のメンバーが運営する無農薬じゃがいも畑。まだまだ少ないメンバーのモノづくり共同体ですが、一か所に集まって活動するだけでなく、各メンバーが各自でヒト・モノ・コトの自給自足に向けた取り組みを展開しています。
こちらは押沼農園。気温も上がってきて、じゃがいも・大根・小松菜などがよく育ちました。
ゴールデンウィークの製作教室が終わって少し経ってから、「クラシックギターを自作したい!」というFさんがご来訪。色々と相談させて頂き、勢いそのままにすぐ製作を始めました。
6月 広がりを見せる技能共有の輪
ゴールデンウィークに開催した製作教室などをきっかけに、モノづくり共同体内外で木工旋盤に取り組む人が増えたことを実感した6月でした。押沼拠点で活動する週末には誰かしら旋盤を回しているという光景をよく目にしたように思います。
また、自身で作った器に拭き漆をする人も増えました。各自の持っている技能・知識はどんどん共有してモノづくり人口を増やすというのも我が共同体の目的です。
自主的にいくつも食器を作るメンバーも現れました。このメンバーは約半年後に製作教室の講師デビューすることになります。
製品加工の幅を広げるため、オーナー様のご提供で3Dプリンタも導入されました。組立やセットアップ、使用法やソフトの勉強、試作等は共同体メンバーが行い、希望者に使用法の共有を行いました。
農園は雑草が繁茂する季節にさしかかり、農園担当メンバーは圃場の管理が忙しくなってきました。
この頃、短期間ではありましたがモノづくりを志す若いメンバーが押沼拠点の活動に参加してくれました。モノづくり人口の増加、特に若い人への技能共有は重要であると考えておりますので、メンバーの持つ技能は惜しみなく伝えました。
7月 草刈りシーズン突入
いよいよ夏!という気候となり、作物と雑草双方が元気いっぱいに育ちました。農園メンバーは草取りに追われました。この時は押沼農園(200㎡)・東国吉農園(500㎡)に加えて埼玉でも農園(100㎡)を管理していました。分担しないと手が回らない状況でしたので、東国吉農園にほぼ専属で2人、押沼と埼玉を1人のメンバーで管理しました。
当然、並行してこれ以外の活動も行いましたのでなかなかハードな時期だったように記憶しています。
つかの間の休息で、各農園の収穫物を使った夏野菜カレーを食べる会も開催されました。また、余剰収穫物は地域の朝市で販売させて頂きました。
若手のメンバーへの技能共有を兼ねて、販売用のギターを作るという試みも。
8月 Fさんのギターが箱になる
5月から始めたFさんのクラシックギター製作教室も折り返し地点という段になり、いよいよボディが箱になりました。ところどころ重要な加工を行う局面では、講師役を務めるメンバーの工房まで出張してもらいました。
講師役メンバーの工房にある設備を遠慮なく使ってもらい、良いモノづくりになるよう応援します。
この頃、エレキギターを自作したいというNさんも参加。メンバーがサポートしてモズライトタイプの製作を始めました。
製品作り第2弾として、メンバーで分担してアコースティックギター製作も始まりました。
9月 学ぶ・伝えるの繰り返し
少し過ぎしやすくなった9月も旋盤・ギター製作等、小さな規模ではありますが技能継承が繰り返し行われました。
現在のモノづくり共同体には、ギター・木製食器・レザー・木製自転車・ナイフ等の製品作りに加えて自給目的の露地野菜栽培経験者が複数在席しています。
例えばここに鍛冶仕事が出来る人が来て、食品加工出来る人が来て、稲作経験のある人が来て、という風に技能は違えど志の近しい人が集まって来ることで共同体としての生命力が強化されます。
現在在籍しているメンバーがたまたまギター製作が出来たから、その技能を広めるためにギター製作教室をしている訳であって、それが主目的ではありません。
それをきっかけにギターを作る人が増えればいいし、「ギターが作れたんだから椅子も作れるかな」と思ってくれる人が出てくればいいわけです。
9月は活動1周年の月でもありました。農園で採れた野菜を使ってバーベキューを開催しました。バーベキューインストラクターで、以前ウクレレ製作教室に参加して下さったKさんが腕を振るって下さいました。
10月 製作教室のギターが形になり始める
2件同時進行中だったギター製作教室。どちらの生徒さんもめげずに製作を進め、ギターらしい形になってきました。こちらはエレキギターを作るNさん。
こちらはクラシックギターを作るFさん。
お二方とも、全くの未経験です。失礼に当たるかもしれませんが、ご年齢も性別も関係ないということをお二方は身をもって示されています。
若手育成事業を兼ねたエレキギター製作は塗装の段階に入りました。残念ながら、製作に携わっていた若手メンバーは地元に帰るということで押沼での活動からは離れてしまいました。
このギターは藍染で染色しています。こういった技能や知識も真剣にモノづくりを志す人には包み隠さず公開しています。
11月 技能共有の場が増える
Fさんのクラシックギターがついに完成しました。色々と失敗もありましたが、しっかりとギターの音色を奏でることの出来るものを完成させることが出来ました。キットは一切使用していません。材木の状態からここまで作り上げました。
木工を職として志したいというUさんが旋盤教室に来て下さいました。
押沼拠点近くに住むメンバーが旋盤教室の講師を務められるようになってくれたお陰で、11月からは埼玉拠点でも旋盤教室が開講出来るようになりました。
こちらはもみ殻と糠で作ったボカシ肥。いつまでも「無ければ買ってくれば良い」が通用しないであろうという危機意識に基づき、繰り返しになりますがヒト・モノ・コトの自給自足を目指していきます。その対象は幅広く、生活を豊かにするモノ全般に及びます。それだけに、沢山の仲間が必要なのです。
作業台製作を通じて溶接の練習を行うメンバーも。
我々の言う「モノづくり」は、実用性のあるモノであればどんなものでも良いのです。
12月 完成・収穫 また新たなモノづくりへ
Nさんのギターも無事完成。
共同体メンバーによる藍染ギターも完成。
モノづくり共同体の製作教室で初めて木工旋盤加工を行ったメンバーHさんは、モーターやパーツを集めて木工ろくろを作り始めました。パーツの一部は別のメンバーが金工旋盤を使って加工したものです。
Hさんに木工旋盤を教えたメンバーは、今度はHさんに木工ろくろを教えて貰うことになるでしょう。便宜上いくつか肩書を設けてはいますが、モノづくり共同体では上も下もありません。出来る人は出来ない人に教えてさらに上手くなる。出来ない人は教わって練習してさらに上手くなる。個人の研鑽の集積から、共同体としての前進・成長を目指します。
埼玉拠点では新たにギター製作を目指す生徒さんを迎えました。「せっかくだから自分のギターを自分で作ってみたい」という人もいれば、「これをきっかけに今後沢山ギターを作りたい」という人もいます。両者ともに責任をもって応援しますが、出来ることなら、これをきっかけにモノづくりを続けて欲しいと願います。
押沼農園では秋作のじゃがいもが収穫出来ました。
残念ながら、夏野菜の収穫をもって農園メンバー2名がモノづくり共同体の活動から離れてしまいましたので、東国吉農園は共同体での管理は終了となりました。
総括
以上、簡単にではありますが一年を振り返ってみました。
モノづくり共同体は、今後起こるであろう危機を見据え、食料から生活用品に至るまでを供給出来る力を持った集団を作ることを目的に活動を始めました。
ロシア・ウクライナ問題や感染症騒動などに目を奪われがちですが、我が国の置かれた状況は全方向で危機的な局面を迎えていると認識せざるを得ないと思います。それは食料・モノづくり・教育に至るまで、「これは安心だ」というものは皆無と言っても過言ではないでしょう。
こういった認識をお持ちの方は決して少なくなく、識者の講演を聞いて危機感を共有したり、危機と向き合う団体や政治家の活動を支援されている方もいらっしゃることと思います。
然しながら状況は、「誰かを応援する」では間に合わない段階に入っていると考えます。自身の生き方、時間の使い方を見つめ直し、一人でも多くの人が消費する側から生産する側に移る必要があるように思います。
普段の生活を振り返ってみて下さい。「売ること」「買うこと」に終始していませんか。「お金があれば買える」状況はあっという間に崩れる可能性があります。それは我が国に限らずとも、過去の事例に明らかです。
我が国の持つ貴重かつ豊富な資源である山林(木材)や田畑は、管理する人や産業の後継者不足が原因で荒れてしまったり、無用なものを設置する土地と化していることはご存知のことと思います。これらを有効に活用し、生産・消費していく流れを我々ひとりひとりの力で作っていかなくてはなりません。繰り返しになりますが、誰かを応援して改善を期待していては手遅れになるでしょう。
一人で取り組むには難しいこともあろうかと思います。「自分には出来るわけない」「場所も資金も十分にない」と一歩が踏み出せずにいる方もいることでしょう。是非共に歩みを進めましょう。
こういった認識のもと動いて下さる仲間が増えれば、まず小さな「村」のような共同体が形作られるでしょう。我々以外でも各地にそういった共同体が出来、交易していくと考えれば希望が見えてきます。
自給農だけやっても駄目でしょう。でも、自給農は必要不可欠です。
皿だけ作れても無意味でしょう。でも、食事に皿は必要です。
まずは食料が優先でしょう。でも、畑仕事にも農機具が必要です。
米があればなんとかなるでしょう。でも、精米するには機械が必要です。
このように、全てを一人で賄うことは不可能です。我々の慣れ親しんだ文明的な生活を送るには、誰かの作ったモノを消費して生きていく他ありません。故に、多様な人・技能・知識が必要です。沢山の仲間が必要です。
多くの人が「モノづくり始めませんか?」と言われると「自分は不器用だ」「経験がない」と仰います。我々の作った製品を見て「凄いですね」と仰います。どうか、他人事と捉えず、あなたの興味が湧くモノづくりを始めて下さい。生活に必要なモノならどんなものでも良いのです。先人の残したモノや、我が国の自然環境で「観光」するだけでは、先細りしていくことは明らかです。肝心なことは技能・知識・経験を継承していこうとする姿勢だと思います。
我々は、自分たちのことを「匠」や「職人」だと思っていません。多少なりともモノづくりに関わらせて頂いて、到底そのレベルではないと理解しているからです。若くして志を持つ方には是非ともその次元を目指していって欲しいですが、若手に任せている場合ではありません。全世代が自分に出来ることを目一杯やらなくてはならないのです。
重たい話になってしまいましたが、悲観的になっても仕方ありません。良く学び実践し、自分や周囲の人の為に生産し、消費する。脱「今だけ・金だけ・自分だけ」です。
これを明るく前向きにやっていきましょう!我々でお手伝い出来ることは精一杯させてもらいます。志を共にする方からの「これを手伝ってくれ!」という話も大歓迎です。
来年も、新たな活動を展開していく予定です。沢山の方のご参加を心よりお待ちしております。本年は大変お世話になりました。来年もどうぞ宜しくお願い致します。
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